M氏の将棋

序盤戦術と自戦記書くよ(`・ω・´)

風車について(中飛車・四間飛車)

風車について語っていきます。

風車の陣形

図1:基本図

図1が風車の基本図です。全面にわたって手厚い構えとなっていて、またこれはツノ銀部分(67銀78金)の特性ですが角が8筋の防御から解放されることで駒組みにおいて自由度が高いことが特徴です。またツノ銀中飛車と比較して玉型が中央寄りとなっています。9筋の歩は相手に突かれたら突き返すのが基本です。持久戦の際に▲97角配置ができることと△42角から端を狙われた際に△91飛▲99飛△97角成などの強襲の筋を緩和するためです(相手どう見ても急戦の場合以外は突き返すのをおすすめします)。
下段飛車を実現することに限っては序盤に▲58飛としているため右玉より一手損なのですが、その代わり▲58飛には以下のようなメリットがあります。

  1. ▲55歩△同歩▲同飛△54歩▲59飛と下段飛車に構える際に一歩交換が可能。
  2. 序盤から飛車を左辺に配置しているため急戦耐性が高い。

風車側にも特有の利点があることがわかります。

次に基本図から風車の最終理想形に組み替える場合を見ていきます。

図2:▲57角    図3:最終理想形

▲57角-▲77桂の構えを取っておいて最終的に▲58玉と中央に移住します。意外と勘違いされやすいのですが風車の肝であるのは▲58玉(中住まい)よりも寧ろ▲57角の方です。この角は84地点を睨むことで相手の△84飛や△84角の配置を牽制しています。これができないから相手も方針に迷う、というのが風車の静かなる主張です。なので▲57角は非常に重要度の高い手と言えるでしょう。ちなみに▲77桂は△73角配置を牽制しています。
▲38金については自玉の安全度を高めるために▲48金と寄ることもありますが、ただしこの▲38金というのは相手が△32飛-△35歩-△34金などで3筋突破を狙ってきた際に▲27金で受けることも視野に入れています。また更に▲27金→▲26金(棒金)として端や3筋を狙っていくケースもあります。

風車の戦い方

風車はバランスがよく隙のない陣形です。主に対穴熊で威力を発揮します。考案者の伊藤果氏によると「戦わない!攻めない!千日手だっていい!」という精神とされます。この文言によれば防御の戦法のように思いがちですが、防御というより流動性こそが風車の趣旨だと思います。例えば仮に厳密な形勢が悪かったとしても陣形コンセプトが穴熊と対照的に異なるため、穴熊vs美濃で単純速度不利で負けるような場合と比較して風車では常に「勝ち筋」を意識した戦いが可能です。その勝ち筋というのは..
1⃣いずれかの筋で手厚さを確保する
 ➡2⃣玉をその筋の方面に展開する
  ➡3⃣玉を中段に逃げて簡易的に補強または入玉する
という流れです。この「攻撃/防御において場所を固定しないが明確に方向性はある」という状態が流動性であり、風車が活かせる戦い方であると思っています。また風車では玉の堅さ/安全度を強化しても相手の穴熊とは比較にならないため、選択肢や含みの多さなど、定量化しにくい抽象的な要素で戦っていくことになるでしょう。具体性と対極を行くといった、そこが難しいところでもあります。

攻撃タイプ

風車には伊藤果 氏の使っていた上記の指し方の他に、いくつか種類が考えられます。それらの特徴とそれを取り巻く事情について書いてみます。

まずは5筋歩交換をする攻撃タイプの指し方。(図4, 図5

図4:△55歩   図5:△33桂

後手の理想としては図5から△65歩から6筋の歩を持って△81飛-△86歩▲同歩△85歩▲同歩△86歩図6)、この強力な一撃が入れば後手ペース。しかし厳密には図5から▲16歩△65歩▲同歩△同銀▲45歩△同歩▲44歩図7)となって先手勝勢です。

図6:△86歩(後手良し)   図7:実際問題▲44歩

4筋から手を作られると26角が62金を睨んでいることもあり後手が勝ちにくいでしょう。また5筋交換によって将来的に▲55桂の筋が生じていることには注意が必要です。

さて後手が図7の展開を避けるためには54銀〜6筋歩交換をもっと早くに済ませておかなければなりませんが、今度は図8のように▲37角-▲68飛のように6筋を本格的な戦場にされると後手自信ありません。

図8:早期の6筋交換には▲68飛(先手良し)

5筋歩交換は強力な指し方ではあるものの、このように厳密には無理気味のようです。
またそもそも先手は図4(△55歩)から▲同歩△同飛の瞬間に以下のような対策もあり

  1. ▲56銀△51飛▲58飛参考図b)以下△45歩▲65歩で先手勝ちやすい。
  2. ▲65歩参考図a)以下△同飛には▲56銀。△57飛成▲同金△65桂▲68角△57桂成▲同角は先手持ち。△51飛には▲64歩△同銀▲86角△42角▲56銀△54銀▲24歩△同歩▲65歩で先手勝勢。
参考図b:▲56銀で咎める   参考図a:▲65歩で咎め

したがって5筋は交換せずに57角型に構えた方が無難だというのが通説です。

風車四間

次に四間飛車について考えてみます。前述のような課題があって中飛車といえども5筋歩交換をやりにくいといった事情があります。したがって、どうせ5筋で飛車を使う予定がないなら四間飛車にして6筋を強化した方が建設的なのではという見方もできます。

図9:風車四間

四間飛車からでも同様に▲57角まで持っていくことができます。また6筋に手厚いことから加藤流袖飛車に対してメリットがあります。

図10:vs加藤流でのメリット

中飛車の場合と同じように進めると図10から▲24歩△同歩▲45歩△同歩

  1. ▲33角成△同桂▲44歩△同銀▲34飛△36歩▲同飛△14角(変化図11a)後手良し
  2. ▲44歩△同角▲同角△同銀▲34飛△33銀▲35飛△44角▲45飛△36歩(変化図11b)後手良し
変化図11a:△14角(後手良し)   変化図11b:△36歩(後手良し)

飛車が4筋に利いているのが大きく、加藤流に対して有利に立ちまわることができます。

次に風車四間における58金型について考えてみます。

図12:四間飛車58金型

58金型は金銀の連結が非常に優れているのが特徴です。また角の可動域を邪魔しないので、37桂省略と併せることで❶26角配置 ❷37角配置 といった柔軟な陣形選択ができます。評価値上は-500で形勢不利な選択ですが、大局観としては十分ある選択肢です。

また58金型が金銀の連結に優れていることが具体的に生きる場面として以下のようなケースが挙げられます。
図13では相手が角交換になる変化を選んできてパッと見では愚策に見えますが、しかし58金型ではなく48金型であることが祟ります、以下▲同歩△同角▲同角△同飛▲76歩△66歩図14)➡不満

図13:△75歩   図14:△66歩(困る)

図14となってこちら困ります。以下▲同銀は△76飛とされて相手も主張が通ります。それならばと以下▲75歩は△67歩成▲同金△78角で両取りがかかり劣勢となります。この際58金型であれば、同様に進んだとき▲75歩△67歩成▲同金右(図14b)

図14b:▲67金で受かる

...となり受け切ることができます。最後は▲同金右に代えて▲同金左△78角▲29飛△67角成▲同金としても受かります。このように58金型は左の金銀をサポートすることができます。

また四間飛車であれば56銀型という選択肢もあります。

図15:56銀型

腰掛け銀は部分的には好形であり、また防御面においても57歩型が△84角のラインが48地点まで直通するのを防いでいます。▲78金→▲68金→▲58金と囲いにひっつける手も一応あったりします。総じて、風車らしさが減るかわりに純正風車に比べて防御力が高いという印象を持っています。

ちなみに▲78金→▲68金→▲58金を省略して直接▲58金と上がろうというのが昔自分が研究していた「きつね流四間飛車」というやつです。

以下のページで一瞬だけ言及しています。

mars2718.hateblo.jp

さて風車についての見解は以上で全てです。

風車は2018年に出会ってから自分が長らく愛用している戦型です。おそらくネット上に解説を上げている人は少ないと思うので、書いてみました。誰かの何らかの役に立っていれば幸いです。