M氏の将棋

序盤戦術と自戦記書くよ(`・ω・´)

相居飛車 7筋位取り構想2つ

居飛車において囲い上部の位を取れるケースは稀です。位取りは相手も嫌がるところで、例えば銀立ち矢倉(図1)を例に説明してみます。

図a:銀立ち矢倉

図aのように位を取ることで相手に近い位置に前線(歩のぶつかる場所)が形成されます。これにより相手は気軽に歩を突き捨てることができません。△74歩▲同歩は将来的に▲73歩成△同桂▲74歩であったり単に▲75銀として74歩を支えられても後手困ります。一般に「開戦は歩の突き捨てから」という格言があるように、自由に歩を突き捨てられるかどうかは仕掛けの是非に直結する問題です。また7筋の位を取ることにより下記のような構造的メリットも得られます。

  • 81桂の活用を阻止できる
  • 77桂~85銀(桂)の一歩かすめ取りが可能

以上のような理由から総じて図aは先手十分の形と言えそうです。したがって実戦では相手はこちらの位取りを許さない方針で指してきます。といっても相手からして「許さない」のは意外と簡単で、早めに△64歩△63銀で構えて▲75歩に△74歩で位を消したり、引き角+△64銀で次△75銀を見せるだけで「許さない」が達成されます。

今回の記事では居飛車において位取りを実現する構想を2つ紹介します。いずれもネットで見つけたアイデアです。いつものように自分が後手番と仮定します。

33金型位取り 

序盤は坂田流向かい飛車に似ています。
初手から▲26歩△34歩▲25歩△33角▲76歩△32金▲33角成△同金図1▲38銀△44角▲88角△84歩図2

図1:△33金    図2:△84歩

途中△44角▲88角がポイントで、この交換を入れることで図2において次の△85歩(8筋歩交換)が厳しい狙いとなります。

図2から▲44角△同歩▲88銀△35歩▲46歩△52金▲77銀△43金▲47銀△34金直▲68玉△42玉▲78玉△32玉図3

図3:結果図

後手の策略により先手は8筋歩交換を受けるため▲44角としなければならず、後手が一手得できる計算になります。結果図となって後手は3筋位取り居飛車に組めており、次に△22銀~△33銀、△33桂~△25桂などがあり後手が方針に困ることはありません。

この指し方が優れているポイントは2つあります。
❶角交換の将棋にすることによって引き角+46銀の筋がなくなっている点
❷33金の足場を利用して最序盤に35歩を確保できている点

この指し方は故 丸田祐三九段が多用していたものらしいです。
情報源:ようこそ!研究室へ の中のページ→筋を通せ!/1筋~9筋の抜け道的裏ワザ

丸田祐三 九段(1946年プロ入り)

居飛車党であり歩の使い方が巧みなことから「小太刀の名手」と呼ばれました。また丸田流ひねり飛車(97角型)の創始者でこれを多用していました。そのため▲36飛△33金となる将棋が多く、自身も▲77金と上がるなどこの形に抵抗がなかったようです。先述の33金型位取りが生み出されたのもそういう背景があるのでしょう。
ただしDB2で丸田氏の棋譜を漁ったところ、33金型位取りを採用した棋譜は一局もありませんでした。戦後直後ということもありDB2に収録されていない棋譜が多くあるのでしょう。ちなみにこの丸田氏は2015年に死去するまで最後の大正生まれの棋士でした。

43金型メリケン向飛車 

棋譜有吉道夫 vs. 升田幸三 順位戦

序盤はメリケン向かい飛車と共通ですが△34銀を優先したのが後手の小さな工夫です。▲46歩△42飛があるので先手は▲46歩を突きにくいです。また△34銀と上がったことで後手は通常のメリケン向かい飛車の攻め筋(△24歩▲同歩△同飛)をしないことを明示しています。
△43金右がこの戦法の根幹です。これは飛車周りの構造を強くして図4図5のように手厚く指す意味です。

図4:△43金    図5:△25歩

その後は△23金→△72飛(図6)と飛車を転換します。後手は向飛車を利用して2,3筋に堅牢な構造物を築きました。先手は△27歩まで押し込まれているので、この後手の構造物に対して手出しができない状態です。

図6:△72飛

結局本譜は後手が勝っています。大胆な作戦であるにもかかわらず意外にも再現性が高く、有力な戦法だと思います。

おわり