M氏の将棋

序盤戦術と自戦記書くよ(`・ω・´)

松浦流・田丸流・高田流左玉

今回はプロが採用していた左玉をいくつか紹介します。

高田流左玉

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図1:66角型    図2:銀多伝型

高田尚平 七段(1989年プロ入り)

マイナー戦法として紹介されまくった結果、今ではむしろ有名になりましたね(≧▽≦) 一般的に紹介される高田流は図1のような66角型がほとんどなのですが、厳密にはこれは振り飛車穴熊に対する限定的な作戦です。高田氏は図2のような銀多伝を多く採用しており、棋譜を漁った限りでは1:9の割合で銀多伝がほとんどです。銀多伝は主に対石田流で採用していた印象です。

また高田流では▲65歩の位取りをあまり急がず、相手が△64歩などとしてきた場合には▲75歩~▲76銀~▲68飛~▲65歩(図3)として6筋圧迫で勝負します。玉が薄く▲57銀が浮いているのが痛いため、実戦的には互角~やや怖い形勢のようです。

 

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図3:68飛

高田流左玉は変幻位取り戦法玉頭位取りと関連があります。詳しい関連性については以下のページを参照。

rocky-and-hopper.sakura.ne.jp

要約すると、高田流では図3の局面で事前に△54銀型と備えられた場合は▲68飛ではなく玉頭位取りにシフトします。元来 玉頭位取りは振り飛車からの櫛田流(△44銀→5筋交換→△54金)が有力な作戦でした。そこで▲68飛を見せることで△54銀型を引き出し櫛田流を回避して玉頭位取りに組む作戦が登場しました。これを変幻位取り戦法といいます。振り飛車側としては玉頭位取りに対して櫛田流の他に、玉頭の圧力を緩和する意味で振り飛車穴熊が有力視されていた時代があります。この振り飛車穴熊に対して図1の66角型に組もうというのが高田流左玉です。つまり変幻位取り戦法と高田流左玉は2つで1つの作戦です。高田氏は場合分けして使っていた・・・と、複雑になってきたので以下に高田氏の使い分けのチャートを載せておきます。

・相手三間石田流➡高田流左玉銀多伝(△歩交換→△64歩▲同歩△65歩を無効化)

・相手四間穴熊 ➡高田流左玉66角型(相手歩交換無しなので66角型が可能)

・相手四間美濃 ➡変幻位取り戦法

         ┣相手△44銀型 ➡▲68飛(6筋制圧を主張)

         ┗相手△54銀型 ➡玉頭位取り(櫛田流回避を主張)

棋譜

・高田流_3筋受け大失敗            ・高田流_76銀vs64歩低く受け 

・高田流_銀多伝71銀vs石田流46歩56銀   ・高田流_銀多伝vs75銀金無双

・高田流_44角34銀vs四間飛車穴熊57銀48飛 ・高田流_76銀→玉頭位取り 

・高田流_銀多伝もりもりvs三間穴熊     ・高田流_角交換vs57銀向かい飛車

・高田流_角交換vs三間飛車         ・高田流_銀多伝71銀vs三間穴熊 

・高田流_銀多伝vs35銀石田流         ・高田流_銀多伝vs角切り乱戦 

・高田流_銀多伝vs56銀石田流穴熊       ・高田流_銀多伝vs平矢倉 

・高田流_玉頭位取りvs57銀型四間       ・高田流_34銀vs46歩47金高美濃 

・高田流_76銀68飛vs64歩62飛        ・高田流_66角型vs穴熊33角打ち62飛 

松浦流左玉

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松浦隆一 七段(1977年プロ入り)

松浦流左玉の駒組みは独特で、まず▲78玉で居飛車に偽装することにより高確率で▲65歩の位を取ります。その後は左辺の駒組みが充実するのを待ってから▲58飛→▲59飛→▲89飛または▲48飛→▲49飛→▲89飛と回して左玉になります。この駒組みのメリットは相手の速い動きに対応しやすいことです。▲28飛で留まる時間が長いため実質居飛車であり、玉型が早い段階で安定するので相手が迂闊に動いてくるようなら▲26歩から積極的な反撃が行えます。

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ちなみに▲65歩に△54銀は▲55歩65銀▲75歩~▲77桂があるので追い払えます。

松浦流の欠点というか難点は、飛車を振るタイミングが非常にシビアなことです。左辺が充実するにはかなりの手数がかかるので相手も△35銀とか△25歩~△24飛でかなり攻撃態勢が整ってきます。本当は▲58飛の前に▲38金を上がって2,3筋を補強できたら良いのですが、あいにくそれでは飛車が振れません(;・∀・) よって飛車を振る際にはどうしても隙ができるので、左玉まで安全に組み上げることができるのは相手が振り穴の場合に限られます。実戦的には多くの場合で居飛車のまま戦いが起こります。

棋譜

・松浦流_13角vs三間穴熊

・松浦流_47金38金vs三間穴熊

・松浦流_居飛車戦闘vs三間美濃

田丸流左玉

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田丸昇 九段(1972年プロ入り)

田丸流左玉は▲67金▲57銀の陣形です。メリットとしては左銀が5筋の厚みを担っていることで右銀の動きが自由になります。

田丸氏と高田氏
ちなみに田丸氏は高田流左玉と同じような指し方をすることがありましたが、田丸氏の方が昔の時代を生きた人なので「高田氏が田丸氏の指し方を参考にした」という経緯になります。したがって本当なら 高田流→田丸流 とすべきなのですが、現在の知名度の観点からこの記事では「高田流」という名前に統一すると同時に、田丸氏に固有の指し方(上図)を「田丸流」と呼ぶこととします。

さて田丸流に話を戻して解説します。

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田丸流左玉は、特に相手が向かい飛車棒銀の場合に効果を発揮し、▲28銀と受ければ棒銀を完封できます。

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▲65歩の位が取れない場合は▲86角から玉頭戦をするようです。田丸氏は「左玉+▲86角」を高く評価しているようで、相手が△64歩を突いた場合には基本的に▲86角が定位置になります。

田丸流の欠点としては57地点が左銀で占有されてしまっているので右銀が順当に囲いに参加できません。なので相手の攻撃が軽い場合は▲48銀→▲59銀→▲58銀という風にmaneuver(※)して囲いにくっつけるのが賢い構想です。他には一応▲48銀~▲36歩~▲37銀のB面攻撃も考えられるところです。

maneuver...チェス用語。特にナイトなどの同じ駒を何度も動かすことで、手損ながら好位置に移動させて優位を得ること。例えば普通は1手で行けない隣のマスに3手かけて移動したりする。

 

次に、田丸氏は高田流左玉もたまに指していたのでそちらを見ていきます。この田丸氏が指す高田流左玉の特徴としては、相手が64歩を突いてくる場合に7筋の位を取らず▲48玉~▲39玉~▲48金として中央の2枚銀を活かして戦います。

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ただし実際問題, 57銀型は当たりの強い形なので、相手の△13角のラインや△45桂が強烈に当たってくるといったデメリットがあります。また本来矢倉を攻撃する際には銀が一枚あれば事足りまして、銀が二枚あったからと言って攻撃力が上がるわけではありません。なので▲57銀は攻撃用ではなく左辺の防御の意味が強いと思います。実際 田丸氏の実戦では一応▲75歩△同歩▲同角から7筋の歩は交換だけしておいて▲39玉~▲48金左や、▲46歩~▲47金左のように待機志向で戦うことが多いです。

棋譜

・田丸流_86角雁木vs三間穴熊(大失敗)  ・田丸氏の松浦流_居飛車戦闘vs石田流

・田丸流_高田流86角vs三間銀冠      ・田丸流_高田流48玉vs三間矢倉

・田丸流_67金vs三間35銀36歩(大失敗)    ・田丸流_67金vs中飛車穴熊

・田丸流_67金vs棒銀           ・田丸流_86角48玉vs三間25飛

・田丸流_86角67金vs四間矢倉         ・田丸氏の高田流vs三間平矢倉

・田丸流_高田流24角vs金無双37桂       ・田丸流_高田流62玉vs三間57銀

7筋位取り型左玉

ここまで高田氏、松浦氏、田丸氏の3人の左玉を見てきましたが、下図のような7筋位取り型の左玉は一局も指されていませんでした。

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この陣形はWikipediaでも紹介されているのですが、やはり▲57角は△55歩攻めが怖く、▲57銀は▲68角が遊ぶ上に3筋突破の危険があります。やはりプロもあまり評価していないようです。

 

おわり