M氏の将棋

序盤戦術と自戦記書くよ(`・ω・´)

香を改造する話

将棋は優れた戦略ゲームですが、その戦略性に汚点があるとすればそれは「香車の扱いのひどさ」だと思います。今回の記事では香の動きをちょっと改定することによって、香を戦術の中に上手く組み込むことを模索してみます。

チェスとの比較 

まず現状の問題点を整理するため、チェスとの比較について述べてみます。それぞれの駒の活動可能範囲を下図に青矢印にて示してみました。

将棋における香はたいていの駒より価値が低いにもかかわらず端で睨み合っています。これにより、たいていの駒は端に侵入して自由に活動することが難しく、これが将棋における青矢印(青領域)の狭さの元凶となっています。

一方でチェスはどうなのかというと、チェスにおいて香に相当する駒はルークなわけですが、これは横に動けるがために中盤以降でルークを中央に移動させて活用するのがセオリーとされています。したがってチェスにおけるルークの端での睨み合いは中盤以降に解消され、あまり問題となりません。またそもそもルークの価値はクイーンの次に高いとされているため、ルークは他の駒の侵入を阻害する抑止力とはなり得ません。(ルークが阻害できるのはクイーンに対してだけ。)

こういった事情から将棋の駒の稼働範囲は実質的には7×9に近いといえます。

  • 将棋.........7×9=63マス
  • チェス....8×8=64マス

負けてますやん (´゚д゚`)!!

使い方の問題 

香に関するもう一つの問題点として「活用のしにくさ」が挙げられます。前に走ることしかできず、かつ前述のように他の駒は1,9筋に容易に侵入できない、そうなると必然的に中盤・終盤まで香は初期位置から動かないことになります。これがゲーム的に見て非常に美しくないと思います。

しかも自分の香を自由に使うためには下図のような経路を踏む必要があります。

活躍するためにはまず相手に殺される必要があるというのはちょっと不条理な気もします。まるでFPSゲームで「バグで壁にハマったので敵に見つけて殺してもらってリスポーンする」という恥ずかしいやつみたいです。それによく考えれば自分が自由に使う前に相手の方が先に自由に使えてるのです。自分の香だというのにこれでは "あんまり" です。

香を使おうと思ったらむしろ下図のように相手の香を取った方が早いわけです。

  

自分の香は相手の香で、相手の香は自分の香、ということになります。取られることによってではなく、初期配置で盤上にある香をそのまま戦術の中に組み込んであげたいところです。それもちょうどいい具合で。

改善案の検討

将棋のルールをちょっと変えることによって香に関する上記2つの問題「敵味方の稼働範囲を狭めてしまう」「自由に使いづらい」を改善してやろうというのが本記事の目的なわけですが、まず前提としてそのルール変更の程度がどれだけ小さかろうと序盤戦術は現行のものから大きく変容してしまう、ということには触れておかねばなりません。そもそも上記2つの問題を解決するという行為自体、現行の序盤戦術を壊すこととほぼ同義ですからね(笑) したがってこれから紹介する改善案は、絶対に既存の将棋ファンにはウケないです。どちらかというと未来に対して新しい形の将棋を提案するというイメージです。今回は2つの案を検討します。

❶横に動けるようにしてあげよう

これは最もシンプルな案です。失敗の予感がしますが、まぁとりあえず試してみましょう。初手から▲26歩△34歩▲25歩△33角▲16歩△32銀▲17香△12香▲27香△22香(下図)

冒頭のように色を付けたのが下図となります。

狭くなりましたね(笑) ちなみにこの場合、そもそも香対抗になるのかという議論はあります。というのも香に横利きを加えた結果、香の価値が銀などと比べて等価か、ひょっとすると更に価値が高くなっている可能性があるわけです。だとすると先手の▲27香に対して後手は銀香交換を辞さない構えが可能になり、後手は△12香~△22香の必要がないかもしれません。つまり香の価値を上げたことによって赤領域という通行不能エリアの概念がなくなり、下図のようになるという仮説です。

これなら割といい感じです。ただし香の価値は飛車と比べると依然として低く、したがって後手から△12香~△22香とされた場合には先手の飛車が追われる展開になります。次の△24歩▲同歩△同角~△33角で先手の飛車が脅威にさらされます。なので先手は防御の意味での▲17香~▲27香を指す必要があり、やっぱり香対抗にはなりそうです。

ただし繰り返しになりますが、香の価値は上がっているので香対抗自体が問題になることはありません。飛車の肩身が狭くなるというだけです...(;'∀')

というか飛車の肩身が狭くなる、果たしてそういう次元の話で済むでしょうか?相手陣に成る前の段階においては、むしろ香が飛車の上位互換になってしまうという懸念があります。飛車を左右に広く動かす戦略的必要性がない場面では、価値の低い香の方が圧倒的に使いやすくなってしまいます。主役が交代してしまうようでは、流石に将棋が壊れすぎています。

結論としては、香に横利きを加えると飛車の特権を侵害してしまうという重大な問題があるようです。別の案を考える必要があります。ただし香に追加方向の利きを与えて香の価値を高める行為については上図のようにメリットがあると感じるので、この方向性は踏襲しつつ別の案を考えることにしましょう。

 

❷走り範囲を制限して、かつ横ではなく斜め下に跳べるようにしよう

これは割と良い案だと思っています。❶を踏まえて、まず走り範囲を制限したことによって他の筋に移動した際に飛車の特権を侵害しなくなっています。それでいて下段から5段目まで最低限の利きがあるので、ある程度は香らしい役割を果たすことができます。横移動ではなく斜め下に "跳ぶ" ようにした理由としては、横移動の汎用性が高すぎたためです。特に香が2筋に加勢できてしまうと❶で述べたように相手の飛車を邪魔してしまう懸念がありました。その点3筋はお互いに桂の利きがあり堅いため、1筋から3筋まで跳ばすように設計するのが良いと考えました。

"斜め下"に跳ぶようにした理由としては、自陣内での移動にコストをかけさせるためです。香の筋を変える行為は「陣形構築における重大なイベント」である必要があります。既存の将棋を壊しすぎないためにも香の筋を気軽に変えれてしまうべきではありません。一例として初手から▲26歩△34歩▲25歩△33角▲16歩△14歩▲48銀△32銀▲26飛△43銀▲17香△13香▲39香跳△31香跳(下図)

これで香の移動に際してかなりのコストが必要になったということがわかると思います。追加条件として「駒を挟んで斜め下に跳ぶことはできない」とか「斜め下が空白マスの時だけ跳べる」などのルールを定めておけば、八方桂のように詰将棋で猛威を振るうのを防ぐことができると思います。香を3筋に転換しても、五段目までしか利きがないので袖飛車よりも劣ることになり、飛車のメンツを守ることができています。

また斜め下に跳ぶことには、既存の囲いに対する過度な強化を避けるという意味もあります。下図のように、香の横方面への移動は既存の囲いには影響を与えません。ちなみにこれは前述の「斜め下が空白マスの時だけ跳べる」という追加条件を加えることによっても同様に達成できますね。

ただし走り範囲についてはもう少し規制を緩めてもいいかもしれません。範囲が狭いと上図のように相手の囲いを端から攻略することが難しくなります。穴熊とか端から手を作れなかったらどこから手を作れるんだ!って感じですからね(笑)

 

おわりに

今回は尺の都合上2つの案に限って検討をしましたが、やろうと思えばたぶんもっと案は思いつくと思います。どうでもいいようなフワフワしたことを考えるのは、なんとも無責任で楽しいものです。

ちなみに3つ目の案も考えていたのですが「香に横方面の利きを追加する」「香の走り範囲を制限する」これらの度合いが強すぎたため香がカナ駒化してしまいました。才能にあふれる人材を凡人に育ててしまうという日本人の悪い体質が出ているような気がしたので、反省が必要なようです。(;´・ω・)